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【読書感想】「成瀬は天下を取りに行く」シリーズ

なんなんだ、この清々しさは!?

——変わっているって、こんなに気持ちいい!?

そう思わせてくれる小説に出会いました。

◆「成瀬あかり」に振り回される心地よさ

宮島未奈さんの小説
『成瀬は天下を取りに行く』
そして続編
『成瀬は信じた道を行く』
を読みました。どちらも痛快。
個人的には、続編の方が筆がのっていて、どの話も面白く感じました。

主人公・成瀬あかりは、はっきり言って「変わっている子」。
でも、その変わり方がとびきり清々しくて、読んでいて妙に心が軽くなるのです。


◆「成瀬」は語らず、周囲が語る——この構成が絶妙!

まず注目したいのが、語りの技法。
この物語は一人称(=成瀬の語り)ではなく、彼女のまわりの人々の視点で描かれているという点が、とても面白い。

クラスメイトや近所の人たちが、少し戸惑いながらも成瀬を観察し、語ることで、
成瀬の“異質さ”や“まっすぐさ”が浮かび上がってくるのです。

もし彼女が自分で自分を語っていたら、これほどの面白さは出なかったはず。
他人の目を通して描かれるからこそ、「真面目すぎて逆に面白い」成瀬が際立ち、ユーモアや驚きが生まれる。
これはもう、見事というしかありません。


◆「合わせない」ではなく「合わせる必要を感じていない」

成瀬は、誰かに合わせようとする気配がまったくありません。
でもそれは「反抗している」わけでも、「我を通している」わけでもない。
ただ、自分の中で「こうしたい」と思うことを、そのまま淡々とやっているだけ。

本人は一切気負っていないのに、結果として周囲が揺さぶられる。
そして読者である私自身も、
「あれ? もしかして私も、自分のやりたいことをやっていいのかも」と、勝手に思わされている。

成瀬が何かを“教えてくれる”のではなく、
読者の側が勝手に励まされ、気づきを得てしまう——この良い意味で“振り回されている”感覚が、読書体験としてすごく楽しいのです。


◆「少し変わっている」が「唯一無二」になっていく

物語のなかで、成瀬は小学生の頃に少し孤立していたこともあったようですが、
中学生になってからは、とにかくブレずに「自分のやりたいこと」を貫いていきます。

時には突飛な目標を掲げては、あっけらかんと行動に移す。
その姿はとても真剣でありながら、どこか笑えて、でも不思議と納得させられる。

「変わっていること」が自然体で描かれ、読んでいるうちにそれが「魅力」へと変わっていく。
まさに、唯一無二の存在になっていく過程を目の当たりにするような物語です。


◆ご当地描写が生み出す“デジャヴ感”

この作品のもうひとつの魅力は、舞台が滋賀県大津市であること
私たち北陸に住む人間にとっては、ちょっと親近感のある距離感。

しかも、描かれているのはかなり狭いエリアの、日常の風景です。
駅や店舗、通学路などがとても丁寧に描かれていて、リアルな生活感がある。
そして、読んでいるうちにふと、
「ここ、行ったことあったっけ?」という既視感(デジャヴ)を覚える瞬間があるのです。

もちろん実際には行ったことがなくても、
「あたかも見たことがあるような気になる」リアリティが、この物語にはある。
地元感と時代感が絶妙に重なり、読者を物語の中に自然と引き込んでくれます。


◆まとめ:気負わず楽しめて、気づけば背中を押されている

『成瀬は天下を取りに行く』シリーズは、
・語りの工夫が秀逸で
・登場人物が魅力的で
・日常がリアルで
・読者の側が「勝手に元気をもらってしまう」作品です。

読書が久しぶりな方、ふだんあまり本を読まない方にもおすすめ。
文章は読みやすく、話も短編形式なので、隙間時間に少しずつ読めるのも魅力です。

読み終えたときには、なんだか少し、自分のことを肯定したくなっている。
そんな一冊(いえ、二冊)です。
ぜひこの夏、お手に取ってみてください。

案内人りく