イスタンブールの初日は、食事、観光、そして新しい体験が盛りだくさんで、少し情報過多のように感じていました。初めてのトルコ、初めてのガイド、そして初めて一人で参加するツアー。他のツアー参加者との関係もまだぎこちなく、そんな中で「モスク」という未知の空間に足を踏み入れることに、少し緊張していました。
これまで「教会」や「寺院」は訪れたことがありましたが、「モスク」はどこか特別な場所という先入観があり、少し身構えていたのです。私の地元にも、様々な国の方が暮らしており、「モスク」と名付けられた集会場もあるようですが、もちろん足を踏み入れたことはありませんでした。
ただ、イスラム教の教えには詳しくないものの、モスクが聖なる場所であることは理解していました。観光地として開放されているとはいえ、ツアーでなければ躊躇してしまいそうな場所でした。
しかし同時に、これはまさに私が海外旅行に求める「初めての緊張感とワクワク感」だと気づきました。好奇心旺盛な私は、怖れも含めて素直に受け入れ、この貴重な体験を楽しむことにしました。
「ブルーモスク」、正式には「スルタン・アフメト・モスク」は、17世紀初頭にオスマン帝国のスルタン・アフメト1世によって建てられました。この壮大なモスクは、イスラム建築の集大成と言われ、6つのミナレット(尖塔)を持つことでも知られています。特にミナレットには興味深い特徴があります。ガイドによると、各ミナレットのバルコニーには窓があり、それはすべて「メッカ」の方向を向いているとのことでした。信者が知らない土地にいても、そのミナレットを見れば、祈りをささげるべき方向がすぐにわかるようにです。祈りのための目印が街のあらゆる場所から見えるという事実に、イスラム文化が深く根付いていることを実感しました。
イスタンブールの街中を歩いていると、どこからでもモスクの尖塔が目に入りますが、その中でも特に目を引くのがブルーモスクです。アヤソフィアと向かい合うように建ち、まるで街全体を守護するかのような存在感を放っています。海に近いその立地も相まって、観光客だけでなく、地元の人々にも親しまれているようです。
さて。ブルーモスクに入るための行列に並んでいると、ガイドからスカーフをかぶるように指示されました。入り口には私たちの着衣を見ている係員が配置されており、私はあらかじめ持ってきていたスカーフを取り出してかぶりモスクへの列に並びました。そのほか、男性でも肌を露出したハーフパンツなどを着用している方には筒状の布を巻き付けるように言われていました。
モスクの中は、円形の構造で、ステンドグラスが私たちを見下ろして居ます。また、かつてはオイルランプであったという照明がはりめぐらされていました。
しかし、教会と違って、いわゆる正面と思える方向がよくわかりません。偶像崇拝禁止であるこの教えの建物に、異教徒である私は戸惑うばかりでした。 しかし、礼拝者たちが祈る姿を目の当たりにすると、自分が異文化の聖域に足を踏み入れているという感覚が一気に押し寄せ、見えない境界線を感じました。
モスク内の広大な空間に反響する足音、青いタイルに描かれた幾何学模様。天井を見上げると、まるで無限に続くようなその美しさに心が静まり、深い敬意が自然と湧き上がってきました。
ブルーモスクは、世界中から訪れる観光客を迎え入れる一方で、地元の信者たちが日々の礼拝に訪れる場所でもあります。観光客エリアと礼拝エリアは簡単な柵で隔てられており、その物理的な距離以上に、心理的な境界を強く感じました。観光地としての顔と、信仰の場としての顔、この二面性が非常に印象的でした。祈りの場所にも人はいましたが、どうやってはいることができるのかわかりませんでした。入り口が違うのかもわかりません。あとでガイドブックで確認してみようと思いました。
ブルーモスクはアヤソフィアから歩いてすぐの場所にあり、二つの建物は歴史的にも深いつながりを持っています。異なる時代の信仰を象徴するこれらの建造物は、訪れる者に圧倒的な存在感を放ちます。ブルーモスクの静寂と青いタイルの美しさに再び心が引き込まれました。
全体的に鮮やかというのとはまた違った沈んだような深い色合い。歴史がそうさせたのか、薄暗さがそう感じさせるのかどうかわかりませんが、「教会」のようにイエスキリスト像などの偶像がない分、そこは、心が外ではなく、うちに向かっていくような場所なのだろうか、と想像しました。
ブルーモスクを訪れた体験は、私にとって非常に貴重なものでした。教科書でしか知らなかった歴史が、目の前で息づいている感覚は特別です。また、遠い存在だと思っていた「イスラム」が、トルコの日常生活に普通に溶け込んでいることを感じました。異文化との直接的な出会いを通じて、私の好奇心と敬意はさらに深まりました。
ただ、トルコを訪れる前、私は漠然と、街ゆく人々は女性はみな黒いスカーフをかぶり、男性はトルコ帽をかぶって白いロングスカートのような装束で歩いていると思っていましたが、実際はそのような人を探す方がむずかしく、モスクの中も、普通の観光地と何も変わらない印象だったのが逆に新鮮でした。
後で聞けば、トルコはイスラム教徒が多いとはいえ、他の諸国に比べ、服装や戒律などが比較的自由だとのことでした。
こんな些細なことも自分の眼で確かめ、はだで感じられるのは旅の醍醐味でしょう。