ヨーロッパンキムラヤの「輪(RIN)」が教えてくれた、文化をつなぐということ ~RENEW 2024にて~

 福井県鯖江市・越前市・越前町全域で開催される体感型マーケット「RENEW(リニュー)」は、普段出入りできないものづくりの工房を開放し、実際のものづくりの現場を見学・体験でき、地域を越えて、約120社の工房・企業が参加する一大イベントで今年は9回目を数えます。

 私も11月2日・3日に行われたこのイベントに足を運び、伝統工芸の発展を支える地元の職人たちと触れ合うことができました。その中でも、私の心に深く残ったのは「ヨーロッパンキムラヤ」(福井県鯖江市)さんが特別に出店されていた新作パン「輪(RIN)」です。

イタリアの伝統と日本の文化が織りなすパン「輪(RIN)」

 この「輪(RIN)」というパンには、「縁や絆でつながった人々が交流しながら、日本の美しい文化を未来へつなぎたい」という想いが込められているのだそうです。ヨーロッパンキムラヤさんでは、イタリアで伝統的に受け継がれる「パネトーネ種」を使って丁寧に焼き上げ、この特別なパンを作り上げています。

 中には、福井県が育成したオリジナル酒米品種「さかほまれ」で作られたチョコレートブラウニーの酒粕餡が詰まっていて、ふんわりとした甘い香りが漂い、袋越しにも豊かな味わいが伝わってきました。私が今回訪れた会場「固(katamari)」の特設ブースには、パンを焼くためのリング型もディスプレイされていました。

 パンを紹介する名刺大の紙には「輪×木村屋総本店×ヨーロッパンキムラヤ」と書いてあり、三者がコラボしているようです。ちなみに「輪」の文字は書家の「前田鎌利」氏が揮毫されています。

「日本のパン文化を守り、伝える」という想い

 しかし、今回は展示を見るだけではなく、説明をお聞きすることでより深い学びや思いがけない心の動きがあったのです。

 会場には偶然ヨーロッパンキムラヤの後継者の方がいらっしゃって、パン作りに込めた想いや、代々継いできた「パン種」の話を聞くことができました。「日本のパン文化を守り、次世代に伝えていきたい」という言葉には、強い覚悟が感じられました。デザイナーの三宅一生氏と先代が友人関係だったというご縁ではじまった取組み、パリコレへのパンの提供は、今も続けておられ、日本のパン文化を発信し続けているのだとか。伝統を次代に託し、渡していく姿勢に心に響き、私自身も思わず熱いものがこみ上げてきてしまいました。

「文化をつなぐ」ことに向き合う自分

 実は、私は今、地域の文化祭でeスポーツの体験会を企画し、若い世代と上の世代が交流できる文化祭にしていくきっかけにしようとしています。

 しかし、これまでの「伝統」「前例」とは異なる新しい分野であるため、周りの理解を得るのが難しかったり、逆風を感じることもあります。何とか次の世代へ橋渡しをしたいと願いつつも、その思いが空回りしているのではないかと悩む日々です。だからこそ、RENEWで出会った「ヨーロッパンキムラヤ」の方々の「日本の文化を未来に伝える」という気概には、深く共感してしまったのでしょう。

 仕事のうえでは、思いがなかなか伝わらないもどかしさを感じることもありますが、さまざまな文化の担い手たちの姿を見て、なんだか温かい気持ちになり「自分にできる精一杯の形で文化をつなげていこう」という覚悟が生まれました。誰かに理解されるかは別として、まずは自分ができることから取り組んでみたい。そんな決意を胸に、「文化」というものをもう少し自分ごととして捉えていきたいと感じています。

文化とは人と人がつながることで広がるもの

 今回の「RENEW」を通じて、文化とは「人がつながることで生き生きと未来へとつながるもの」だと改めて感じました。パンひとつに込められた職人の想いや、未来を見据えた取り組み。それが人と人とをつなぎ、温かい輪を広げていくのだと実感しました。パンや伝統、そして新しい試みを通して、皆さんにも「文化をつなぐ」ことについて少しでも考えてもらえたら嬉しいです。

RENEW@「固」での体験から生まれたこの気づきが、私のこれからの一歩につながり、また、ここまで読んでくださった方にすこしでもなにかかんじるものがあれば、と願っています。

案内人りく