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地元に“世界一”の味があるという幸運 〜レストラン「ル・ジャルダン」訪問記〜

ジャルダンからル・ジャルダンへ

前々から気になっていたレストラン「ル・ジャルダン」に、ようやくうかがうことができました。
シェフは堀内亮氏。世界一の料理人に選ばれたことのある方です。そんな方が、ここ地元で腕を振るっておられるなんて…その事実だけでもうれしい驚きです。

「ジャルダン」は、福井初のフランス料理レストランとして長年地元で親しまれてきた老舗でしたが、一度閉店後、2022年に堀内亮シェフを迎えて「Le Jardin」として再始動しました。

堀内シェフは、世界的な料理コンクール「ル・テタンジェ賞国際シグネチャーキュイジーヌコンクール」で日本人として3人目の優勝者となった実力派で、東京・銀座の「ロオジエ」やフランスの星付きレストランで経験を積まれました。

リニューアルにあたっては、ナチュラリスティックガーデンを中庭に設け、そこで育てたハーブを料理に使用するなど、地元の風土を活かした料理を提供されています。

このように、堀内シェフの就任とともに「ジャルダン」は新たなスタートを切り、福井の食文化を世界に発信する存在として注目されています。

ランチで再訪

今回は友人と二人でランチをいただきました。二人とも以前の「ジャルダン」へはうかがったことがありますが、遠い昔のこと。ほとんど新しいお店と変わらないドキドキ感です。


扉をくぐると、1組ごとに仕切られたボックス席に案内されました。そういえば、以前のジャルダンはホール全体が一望できるようなオープンなレイアウトだったのですが、今日はちょっと驚きました。広い空間に、1組ずつゆったりと配置されたボックス席は、まるで秘密のサロンのよう。プライバシーにも配慮されていて、とても落ち着いて食事を楽しむことができました。

お皿の選び方もとても素敵で、カトラリーはシンプルで品があります。ナイフはなんと、あのTBSドラマ『グランメゾン東京』にも登場したという、高村刃物製作所のもの。見るからに特注のこしらえで、持った瞬間から「いい道具だな」と思えるような、手になじむ感触が印象的でした。

そして、たまたま居合わせたゲストの記念日にセレブレーションが……

なんと、ホールスタッフの方たちによるアカペラの二重唱。演出というより、自然とその場に花を添えるような、心のこもった歌声に思わず拍手してしまいました。こういう温かさがあるから、記憶に残るお店になるんだなぁと、しみじみ感じました。

一皿目から「芸術」が始まる

さて。お料理に話をうつしましょう。

最初に運ばれてきたのは、まるで小さな芸術品のようなアミューズ。
お料理の説明は一つ一つとても丁寧で、内容の豊かさに、スタッフのご苦労も感じました。

皿の上に水で出来たゼラチンの層。まるでお料理が浮かんでいるようなおしゃれな演出です。

前菜2品目では真鯛のマリネをメインレタスで包んだ一皿
ソースで花びらが描かれたプレートも素敵で、見た目にも楽しめます。

私たちの選んだコースは平日限定でメインは肉か魚からの選択
私は鹿肉を、友人はをチョイスしました。

鹿肉は地元産で、しかも県内2つの地区で獲れたもので、異なる部位がいただけました。
深い色味の鹿肉はレアで提供され、山菜を使った個性的なソースと見事に調和。
ウドや黄韮などの野菜も添えられていて、ほろ苦く春の山を感じさせる一皿でした。

パンは地元の人気ベーカリーが焼いたものだそうで、ハードパンと小ぶりのパンで計3種。どれも食べやすいように小ぶりながら風味豊かで、思わずお代わりしてしまいました(どうやら、パン屋さんはそろそろ変わるのだそうです。おそらくお客を飽きさせない工夫ですね…)。

お料理全体に言えるのは、見た目がとにかく美しい。味わいは奇をてらわないけれど、滋味深く、静かに「攻めている」印象。ソースに頼らず、素材の良さと調和を感じられる丁寧な品々です。
ここでしか味わえない「テロワールterroirという言葉が自然と浮かびました。

二人とも「次はお魚とお肉の両方いただきたいね」と話しました。

最後のデゼールdessertは皿に盛りつけられたプレートと焼き菓子2品。飲み物はコーヒーや紅茶などをチョイスできます(お代わりを進められましたが、おなかのキャパがいっぱいでした・・・)

お見送りと、心に残る余韻

食事を終え、テーブル会計をしたあと、席をたつと、出入口には、堀内シェフご自身がお見送りをしてくださり、二言三言お話しできました。
お写真で見るよりずっと精悍な印象で、きさくな方。
真っ白なコックコートも印象的で、その凛とした清潔感からも料理に対する姿勢が感じられるようでした。

世界一の料理人を、地元で味わえるという奇跡

(余談ですが…)
堀内シェフが以前テレビの情報番組に出演されていたのを見たことがあります。
ある芸人さんとのつながりで登場されたようなのですが、その扱われ方があまりにも軽々しく感じられて、少し心がざわついたのを覚えています。

世界一のシェフといえば、おそらくオリンピックのメダリスト以上に匹敵するはず。そんな素晴らしい方が、食材選びからサーブまで、一皿一皿に込めている時間と神経――なによりこんな中央から遠い地元におられる奇跡。


それを思うと、私はせめて、一人の客として、最高級の敬意と感謝をもって味わいたいと強く思うのです。

最後に…「特別な日の価値」

ランチはディナーに比べたらかなりお得感があるとはいえ、もちろん、普段から頻繁に行けるわけではありません。

頻繁に行ってしまったら、日常の食事が色あせてしまうのは困りますし、家族の食卓を担う身としては、「あくまで特別な日のレストラン」という立ち位置で付き合っていきたいと思います。

それでも…
**“わざわざでも訪れたい”**と思わせる、そんなお店が地元にあることを、私はとても誇らしく思います。
興味を持たれた方がいらしたら、ぜひ一度、足を運んでみてください。
きっと、忘れられない時間になるはずです。

補足

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

今回、私は一切お料理の写真を撮りませんでした。友人は普段からたぶんそうなのでしょう・・・。

私は「記録」と称して、他所ではパシャパシャとお料理ごとに写真を残してきましが、今回は不思議と撮影の気分にならなかったので、自分の記憶を楽しみにしたいと思います。

案内人りく