2024年本屋大賞を受賞し、話題作の仲間入りを果たした『成瀬は天下を取りにいく』。
読後、強く印象に残るのは、やっぱりあの“成瀬あかり”という少女だ。特別なことはしていないのに、なぜか忘れられない。
もし、この物語が実写化されたとしたら……?と妄想してみるのも、作品を楽しむひとつの方法だと思う。
成瀬というキャラクターはとてもユニークだ。
でもそれは、何か大きな行動を起こしたり、印象的なセリフを連発するからではない。
むしろ、普通の風景の中に溶け込んでいながら、そこだけ空気が少し違う。そんな不思議な存在感を持っている。
この“違和感”をどう実写で表現するかは、とても難しい。
明らかに「変わった子」として描いてしまえば嘘になるし、何もせずにただ立たせておくだけでは伝わらない。
そう考えると、成瀬を「どう演じるか」よりも、「どう描くか」の方が重要なのかもしれない。
ふと思い出したのが、映画『霧島、部活やめるってよ』。
この作品では、タイトルにある“桐島”は一度も画面に登場しない。けれど、彼が起こした出来事によって、まわりの生徒たちが変化していく。
まさに“空白”を描いた作品だ。
これを『成瀬は天下を取りにいく』に応用すると、こんな形も面白いかもしれない。
つまり、成瀬は“説明しないキャラクター”として描いた方が、かえって成瀬らしいのではないか。
とはいえ、やっぱり「誰が演じるのか」は妄想したくなる。
私が個人的に「あり」だと思ったのは、當真あみさん。
映画『ちはやふる』で主演を務めた彼女は、落ち着いた雰囲気の中に芯の強さを感じさせる女優だ。
成瀬のセリフの少なさ、感情の起伏の少なさを“無”ではなく“意志”として伝えることができるのではないかと思う。
ただし、彼女にあえて多くを語らせない、余白を残した演出ができるかどうかがカギになりそうだ。
この物語は、読者が“勝手に”勇気づけられてしまう不思議な力を持っている。
登場人物の内面を語りすぎず、セリフも説明も少ない中で、なぜか伝わってくるものがある。
だから実写化するなら、「描かない勇気」こそが鍵になるのだと思う。
成瀬という存在は、何かを語らなくても、そこにいるだけでじゅうぶんに強い。
彼女を取り巻く日常が、ただ淡々と映し出されるだけでも、その“静かな革命”はきっと観客の心に届くはずだ。
ちなみに昔、角川映画に「読んでから見るか、見てから読むか。」という名コピーがあった。
『成瀬は天下を取りにいく』について言えば、私は迷わずこう言いたい——
「まずは読んでほしい」。
映像もきっとすばらしいだろう。でも、この物語の“静かな熱”は、ページをめくる手のひらでじっくり味わってほしいと思う。
実写化を望む声も高まる中、期待と同時に不安もある。
けれど、成瀬あかりという存在を“そのまま”映せたなら——
それはとても美しい、静かで力強い映画になる気がしている。
さて、あなたなら、誰に成瀬を演じてほしいですか?