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通期パス7回目の私が、6時間並んで知ったイタリア館の秘密【ネタバレ編】

前回の記事では、予約なしでイタリア館に6時間並んだ、私の奮闘記をお話ししました。まさかの6時間待ちに、正直「一体、何があるの?」と半信半疑だった私。しかし、その先に待っていたのは、ただ美しいだけではない、心に深く響く特別な体験でした。

コンセプトは「芸術が生命を再生する」

まず、6時間並んだ価値を語る上で、イタリア館のコンセプトについて触れないわけにはいきません。公式サイトや解説によると、テーマは**「L’Arte Rigenera la Vita(芸術が生命を再生する)」**。建築家のマリオ・クチネッラ氏が設計を手掛け、「劇場」「アーケード」「広場」「イタリア庭園」といった、イタリアの都市に不可欠な要素を、ルネサンスの理想都市として現代的に再解釈しているそうです。

マリオ・クチネッラ氏の設計コンセプトなどの記事はこちら

このテーマは、単に芸術品を展示するだけではなく、芸術、科学、技術、デザインといった、イタリアが誇るあらゆる「ノウハウ」を広い意味での「芸術」として捉え、過去から未来へ、私たちを突き動かす原動力として表現しているとのこと。

6時間待ちに値する、驚きと発見の展示

イタリア館の中に入ると、そこはまさに別世界。長い行列の疲れも吹き飛ぶような、洗練された空間が広がっていました。正直、これまでパビリオンにはそこまで興味がなかった私ですが、イタリア館は別格でした。

特に心を奪われたのは、モレスキンの特別コレクションです。

これは、Moleskine Foundation(モレスキン財団)が所蔵する1600冊を超えるノートブックアートの中から、その⼟地の⽂脈に合わせて厳選された作品を展⽰する巡回展『Detour』。⼤阪・関⻄万博イタリア館での『Detour Osaka』は2025年7⽉31⽇~8⽉23⽇の期間、展示されるとのことで、偶然とはいえとても貴重なコレクションに出会えました。

 今回は、イタリアと⽇本のクリエイターに焦点を当てつつ、世界各国のアーティスト含め68名による作品を展⽰。展⽰されるノートブックは、世界的に著名なアーティスト、建築家、映画監督、デザイナー、ミュージシャン、作家に加え、世界各地の学⽣や⽂化団体、若⼿クリエイターから寄贈されたものであり、多様な視点と表現がひとつの空間に集結しています。

そして、その中に見つけた、ある懐かしい名前。川崎和男氏。

「川崎和男って、あの?」と、思わず声を上げそうになりました。

地元出身の偉人との、運命的な再会

川崎和男氏は、私の地元出身の著名な工業デザイナーです。彼は、人工心臓の弁という医療機器から、身近な包丁や眼鏡のデザインまで、幅広い分野で活躍されてきました。地元産業との連携にも熱心で、その功績は地域でもよく知られています。

川崎氏は、1978年に交通事故で車いす生活となってからも、その創作意欲は衰えることなく、多くの作品を生み出してきました。福井県の伝統工芸「越前打刃物」にインダストリアルデザインの概念を取り入れ、タケフナイフビレッジの統一ブランドを立ち上げるなど、地場産業の振興にも尽力されました。また、眼鏡のデザイン「Kazuo Kawasaki」コレクションは、軽さと機能性を両立させたフレームで世界的に評価されています。

さらに驚くべきは、彼が「人工心臓」のデザインに取り組み、医学博士号まで取得していることです。デザイナーとして「いのち」と向き合うという、その壮大な活動に、改めて感銘を受けました。

しかし、最近はあまりお見かけする機会がなく、少し寂しく思っていたのです。それが、まさかこんな形で、遠く離れた万博のイタリア館で、彼の作品の一部と再会することになるなんて!

モレスキンに残された、彼の繊細で力強いスケッチ。それは、単なるデザイン画ではなく、彼の情熱や哲学そのものが凝縮されているように感じられました。彼の功績を改めて思い出し、胸が熱くなりました。

6時間待ちが教えてくれた、本当の価値

「6時間も並んで、本当に価値があったの?」

そう聞かれたら、私は迷わず「はい」と答えます。

単に展示を見るだけでなく、この体験を通して、私はいくつかの大切なことを学びました。

  • 知的好奇心は健康の源: 新しいもの、知らない世界に触れることで、心が若返るのを感じました。知的好奇心を持ち続けることは、脳の活性化にもつながる、最高のアンチエイジングかもしれません。
  • 「待つ時間」も万博の醍醐味: 黙々と待つ時間も、決して無駄ではありませんでした。他の来場者との緩やかな一体感を感じたり、自分と向き合う静かな時間を持てたり…。これも万博だからこそ味わえる、貴重な経験でした。
  • 人生の先輩としての気づき: 若い頃には気づかなかった、作品の持つ背景や歴史の重みを感じることができました。川崎和男氏との思いがけない再会も、長い人生を歩んできた今だからこそ、深く心に響いたのだと思います。
  • 思わぬ「邂逅」の楽しさ:予習をしていかないからこそ、思わぬ出会いがあるものです。それが今回の川崎氏のデッサンとの出会いです。あまりに多くの方が見学され、おしあいへしあいで危うく見逃すところでした。

長かった6時間の先にあったのは、驚きと感動、そして自分自身への小さな気づきでした。人の話を聞いて並んでみたけれど、自分の目で見て本当によかったです。でも、欲を言えば、また何度でも行きたい(ただ、6時間待つのは勘弁・・・ですが)。今回見落としたものもきっとあると思うのです・・・。

さて、次はどのパビリオンに、ノリと意地で並んでみましょうか?

案内人りく