仕事帰りにスーパーに寄り、両手に買い物袋を抱えて家路を急いでいると、思いがけない出来事に遭遇しました。歩行が困難そうなおじいさんと、それを支えるおばあさんがなんとも危なげによろよろとカートにつかまって歩き、あげく二人とも転倒してしまったのです。

 近くのお店の人や私が慌てて駆け寄り、転倒した二人を抱えて起こし、ちょうど近くにあった椅子に座らせました。

 私は、近くに寄せてあった車いすを転がして向かわせ、おじいさんを座らせようとしましたが、思ったよりもうまくいかず手間取ってしまいました。

 実は私は、今の仕事に就く前に「介護初任者研修」を受講していて、介護の基礎的な知識は少しかじっていたんです。当時、定年退職を控えた私にとって、再任用の道が閉ざされる中で、需要が高まっている介護の仕事に興味を持ち、将来のためにもと思って資格を取ることを決めて取得した資格でした。

 しかし、いきなり介護施設に就職することはハードルが高く、結局は違う職種に進むことになり、その後は介護の知識をほとんど使う機会がなく、いつの間にか忘れてしまっていたのでした。

 今回の出来事で痛感したのは、学んだことをいざという時に使えるかどうかは、やはり日々の復習や実践が必要だということです。

おばあさんの優しさに触れて
 この日、おじいさんと一緒に転んだおばあさんは見たところ健常者のようで、おじいさんを支えようとして自分も倒れてしまったようでした。自力で立ち上がったあと、おじいさんを介助しようとする私に対して、終始恐縮しっぱなしで「本当にすみません、ありがとうございます…」と何度も頭を下げていらっしゃいました。

私がなんとかおじいさんを車いすに座らせて一息つくと、おばあさんは持っていたいくつかの小さい袋のひとつを差し出して、私に差し出そうとしました。「これ、お礼の気持ちですから…」と恐縮しっぱなしの様子に、私は思わず胸が熱くなりました。

 しかし、私は笑顔で「気にしないでください。本当に大丈夫です。お互い様ですから。それよりもおじいさんをよく見てあげてください」とお断りしました。困った時に助け合うことは自然なことですし、ほんの少し手伝っただけのことで見返りを求めるつもりもありません。そう言って、私はお二人が無事帰りの車に乗るのを手伝い、その場を後にしました。

継続的な学びの大切さを実感
今回の出来事を通して、日常で他人を助ける場面は突然訪れるものだと改めて感じました。そして、その時に適切に対応できるかどうかは、普段からの学びの積み重ねにかかっていると痛感しました。

たとえ一度学んだスキルや知識があったとしても、それを使う機会が少なければ、時間が経つにつれて忘れてしまいます。介護の知識も同じです。研修を受けた当時は、基礎的な介護技術を覚えていましたが、今回のような緊急の場面では、正確に対応することができませんでした。

これは語学学習にも当てはまりますね。学生時代に学んだ英語や、趣味で始めた外国語も、使わなければすぐに忘れてしまいます。短期間の集中学習よりも、日々の継続的な学びや復習が何よりも大切です。新しい単語やフレーズを覚えるだけでなく、日常生活の中で実際に使うことが、スキルを定着させる鍵だと感じます。

今後に向けて
今回の体験を通じて、介護の知識だけでなく、あらゆるスキルにおいて「学び続けること」「定期的に復習すること」の重要性を再認識しました。いざというときに役立つスキルを持っていても、それを使いこなせる状態にしておかないと、緊急時には十分に活用できません。

これからは、介護に限らず、自分が身につけた知識やスキルを定期的に振り返り、実践する機会を持とうと心に決めました。次にまた誰かを助ける場面に遭遇したとき、もっとスムーズに、もっと自信を持って行動できる自分でありたいと思います。