「ナッジ(Nudge)」という言葉をご存じでしょうか?
直訳すると「ひじで軽くつつく」「そっと背中を押す」。
選択の自由を残しながらも、より良い行動を自然と選んでしまうように環境を整える、
そんな考え方がナッジです。
最近、職場の研修で『NUDGE 実践行動経済学 完全版』(リチャード・セイラー&キャス・サンスティーン著)を読む機会があり、
「これって生活にもすぐ使える!」と感じることが多くありました。
◆ ナッジは、こんなところに使われている
本には、こんな事例が紹介されていました。
・カフェテリアで野菜や果物を取りやすい場所に置くと、健康的な食事を選ぶ人が増える
・ゴミ箱に「あと少し!」と書いたラインを入れると、ポイ捨てが減る
・書類の署名欄を上に置くと、記入率が上がる
小さな工夫が、行動を大きく変えるのです。
◆ 私もナッジに助けられたい
正直に言いますと、私は意志の力にあまり自信がありません。
クローゼットに服がたくさんあるのに、「セール」の文字を見ると、つい新しい服を買ってしまう。
ダイエット中なのに、「ちょっとだけ」とおやつに手が伸びてしまう。
これらもナッジで言うところの「誘惑の環境設計」に負けてしまっている例なんですよね。
◆ 自分にナッジをかけてみたら
本に書かれていたアイデアをヒントに、少し工夫してみました。
・お菓子は見えない場所、取りにくい棚にしまう
・ネットショッピングは「お気に入り」リストで一晩寝かせてから判断
・新しい服を買う前に、1着手放す「1 in 1 out」ルールを導入
すると、不思議なことに“気持ちがラク”になりました。
「我慢してる」のではなく、「手が伸びにくい仕組み」をつくるだけ。
それだけで、意志の力を消耗せずにすむのです。
◆ 職場でも“ナッジ的工夫”を
私の職場は高齢者の利用が多い施設です。
さまざまなお願いごとをしても、なかなか受け入れてもらえないことがあり、悩んでいました。
・エアコンの温度を少し変えたい
・手すりに荷物をかけないでほしい
・感染症対策のマスク着用をお願いしたい
でも、注意や説得ではうまくいかないことも多いのです。
そこで今、ナッジ的な工夫を少しずつ試してみています。
・「この設定が快適だった方 〇%」という“みんながやってる”アピール
・「ありがとう」の貼り紙を先に貼っておく先取り型のメッセージ
・“やってほしい行動”をイラストで楽しく表現する
強制ではなく、“ついそうしたくなる”仕組みづくり。
これなら、相手も自分もストレスが減る気がしています。
◆ おわりに:ナッジは「やさしい環境設計」
ナッジは、「言うことをきかせる技術」ではありません。
人の選択を尊重しながらも、より良い方向へとそっと後押しする――
そんな“やさしい環境設計”です。
仕事にも、日常生活にも、ダイエットにも、お買い物にも。
あらゆる場面で応用できる考え方として、
これからも自分なりのナッジを試していきたいと思います。
言葉のトーンで“上から目線”を敏感に感じ取る例も…。
実は、私が苦手な「ナッジ」の典型例があります。それは、
「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」
たくさんの方が使われる洗面所などに書いてあることが多いです。
これは、いわゆる“先取り感謝”というナッジの典型ですが、
✔ 実際にそうしていない人が読むと白々しく感じる
✔ 押しつけがましく、皮肉にも取られかねない
✔ “感謝”と言いながら、監視のメッセージに聞こえる
…など、受け取り方に差が出やすい表現なんですよね。特に丁寧語が過ぎると距離を感じたり、「建前感」が強くなることもあります。
代案を考えてみました:
◎より自然で、心に届きやすい表現
よくある表現 | 代案(柔らかい・共感を誘う) |
---|---|
いつもきれいに使っていただきありがとうございます | 「気持ちよく使えるこの空間、みなさんのおかげです」 |
ご協力ありがとうございます | 「ちょっとした心づかいが、うれしいです」 |
清潔にご使用ください | 「みんなが心地よく過ごせるように」 |
使用後はきれいにしてください | 「きれいに使えると、次の人もうれしいですね」 |
※「命令」でも「感謝」でもなく、「共感」「共通の目的」に訴える言い方がポイントです。
もし施設用であれば…
高齢者施設などでは、
- イラストや写真と一緒に
- 「わたし語」で語りかける
- 敬語一辺倒にしない
といった工夫が、より伝わりやすくなります。
たとえば:🌸「おひとりおひとりの思いやりで、この空間が心地よく保たれています。ありがとうございます」
→ 誰かを責めない・褒めすぎない・共に場をつくっている感を出す
ご自身の感性を大切に!
「なんとなく好きじゃない」という感覚は、文章づくりや掲示物デザインにおいてとても大事な感性です。
むしろ、それに気づける方こそナッジを“自然な形で”生活に取り入れられる方だと思います。
例文は多々ありますが、そこはご自分の感性を大事に取り入れられるといいですね。