迷いにまよい険悪に…そして浅間山:「ノースライト」のロケ地を求めて

週末、私は長野県へ行きました。目的地は長野市ですが、せっかくですので、軽井沢にも足をはこびました。人生初の「軽井沢」です。テレビではちょくちょく、首都圏からの絶好の避暑地という特番をみたりしていましたが、北陸新幹線延伸で、物理的に移動時間が短くなり、自分自身の気持ちの距離もぐっと近くなりました。

 実際、新幹線で福井と長野の間は最短1時間31分。大阪へはJRと第3セクターの乗り継ぎになっているので、実際こちらが近くなりました。

 軽井沢へは観光地の様子を観たいということもありましたが、もう一つ目的がありました。それは、横山秀夫さんの小説を映像化したテレビドラマ「ノースライト」のロケ地をたずねることです。ドラマで描かれた浅間山の圧倒的な風景と美しい建築をどうしても自分の目で確かめたくて、街中の散策よりもそちらが気になりました(ただし、建築は撮影後、すぐに取り壊されているらしいですが。)。

 今回のロケ地探訪に関しては事前にアップされている動画を参考にしました。ドラマを視聴した方がロケ地を探して投稿した映像や、地元の老舗旅館の若旦那さんが街歩きを紹介する動画などです。それらを見てから実際の場所に足を運ぶというのは、期待と現実が重なる瞬間があり、何とも嬉しい体験でした。

とはいえ、現地での道中は決してスムーズではなく、時には険悪な空気さえ漂う一筋縄ではいかない旅でした。

「ノースライト」のロケ地を目指して:林道の迷宮へ

「ノースライト」は、長野県を舞台に建築家の主人公が心の迷宮を彷徨うミステリー。ドラマは、その世界観を見事に前後2話にまとめて映像化され、特に父子の絆という深いテーマを中心に描き出していました。その舞台となったのが浅間山を正面に捉えた特別なロケ地、軽井沢です。

 ドラマで見た浅間山は、青空の下にその雄大な姿を全容を晒し、まるで作品の象徴のように圧倒的な存在感を放っていました。その風景を自分の目で見たい一心でナビを頼りに車を走らせたのですが、道中は期待通りにはいきませんでした。

 案内された道は実際行ってみると、農道というか細い道で、国道からのは入り口がなかなか見つけられず、何度も行ったり来たりを繰り返してしまったのです。


険悪な空気と意地

 今回は同行者がいました。私が事前に十分な説明をせずに、立ち寄り希望地を目指して運転し、挙句迷い迷いしているものだから、当然、車内の空気も徐々に険悪になっていきます。そもそも「ノースライト」の小説もドラマも見ていないうえ、景色や歴史に興味のない同行者は、「こんなところにみちがあるの?」と呆れ顔。反応は冷たく、会話も途切れがちになりました。

しかし、私は「ここまで来て諦めるわけにはいかない!」という意地があって、どうしても引き返せませんでした。動画で見たあの風景が目の前に広がるまで、どうしても足を止めたくなかったのです。


ついに見つけた浅間山の絶景

そして、ついに細く曲がりくねった道を進み、ふりかえって、イメージと全く同じ、いや、それ以上の景色を目の当たりにしたとき、私は思わず歓声をあげました。

目の前に広がる浅間山は、まさにドラマで見たそのもの。青空の下、雄大な山が全容を晒し、その存在感に圧倒されました。

ただ眺めているだけで心が奪われる不思議な感覚。この山には、ただの観光地にはない神秘的な魅力があります。富士山や阿蘇山が信仰の対象であるというような話はきいたことがありますが、浅間山も神々しいという言葉がぴったり当てはまる印象でした。私は改めて思いました。「私にとって山は登るものではなく、観るものだ」と。


昭和の名残を感じた避暑地のたたずまい

 ロケ地を後にして向かったのは、同じ軽井沢ですが、かつて避暑地として賑わい、今はひっそりと往時の様子を伝えているエリア。そこにも見たい景色がありました。

 ここへ行くのは本当に大変でした。携帯のナビで実際に経路を案内されているにもかかわらず、ちょっと道を行きすぎると矢印がもと来た道をさして先ほどの道を案内したり、実際の道が違っていたり、ガードレールで行き止まりになっていたり等々で迷路に迷っているような状態に陥りました。

 たしかに住宅地の中に入るとナビが途中で案内をやめてしまい、細かくてわからないということはありますが、こんなに見えていてたどり着けないということは初めてでした。

 30分くらいは堂々巡り?をしていたでしょうか。やっと見たい建物にたどり着いた時は感無量でした。実際に訪れてみると、そこには昭和の時代に栄えた華やかさは残っておらず、ひっそりと静まり返った風景の中にたたずんでいました。 このエリアでは、最初の入り口のような場所には人はそれなりにおられましたが、わからないながらも矢印をたよりに山をおそるおそる登っていくと、途中の道はそれなりに整備はされているものの、中には何十年も放置されたままではないか、と思われる建物がぽつぽつと点在し、雑草や雑木が生い茂る様子はまるで時間が止まっているかのようでした。

 私の住んでいる県には大々的な別荘地というものがないので、そもそもふだんはそういう静かなことが多いものなのかはわかりません。しかし、紅葉の盛りが過ぎたとはいえ、週末の秋晴れにこの閑散とした雰囲気はちょっと寂しさを感じずにはいられませんであいた。ここの往時の賑わいを想像しながら歩くと、侘び寂びの感覚が胸に広がりました。ただ、私はそういう鄙びた雰囲気を味わうことも嫌いではないので、それなりに楽しめたと思います。


目的を持った旅の楽しさとハプニングを受け入れる柔軟性

 私は、旅行に関して、以前は旅に出る前に詳細な計画を立てて、しっかり準備をしないと気が済みませんでしたが、最近は、体力や天候に合わせて、一応の計画は立てるけれども、それにはしばられず、優先順位も現地の様子で柔軟にいれかえるなどの応用ができるようになってきました。

 旅行の楽しみは少しのハプニングも受け入れ、むしろ楽しむこと。今回の旅では特にそれを感じた時間でした。ここへも粘り強く?同行してくれた人に感謝でした(一人ではちょっと寂しい場所ではありましたので・・・)

おわりに

こうやって迷うことも楽しい旅を、新幹線のお蔭で行うことができたわけですが、帰りの電車では、目的地の手前の駅、有名な観光地がある県で大概の乗客、特に外国の方は降りてしまわれました。

 世界的な知名度というものはなかなか上がらないのでしょうが、地元行政は新幹線延伸を100年に一度の好機ととらえ、PRや整備に余念がありません。この取り組みに対して、私は最初、「自分はほとんど乗らないしな・・・」と思っていました。しかし、実際、新幹線の利便性を体験すると、欲というか、「自分たちのことをもっとたくさんの方に知ってほしい」と思ってくるから不思議なものです。地元にも素敵な場所やおいしいグルメはあるので、どんどん訪れてほしい、と本気で思いました。

今回のように、自分自身が映像をみたことがきっかけで思いもよらなかった土地へいき、体験できたように地元がドラマや映画で取り上げてもらうよう、何年も前から誘致する理由がわかった旅でした。

 参考にさせていただいた動画です。

「ノースライト」のロケ地を探す動画

軽井沢の老舗旅館の方の動画