福井市の郊外には、地域に根ざした独自の運営形態を持つショッピングセンターがいくつか存在します。その中核となるのが、「福井方式」と呼ばれる運営スタイル。この方式では、大型の核テナントと地元商店で構成される組合が共同で施設を運営する仕組みが採用されています。地元経済を支えるためのこの試みは、全国的にも注目されています。


福井方式の背景と特徴

かつて、**大規模小売店舗法(大店法)**の影響で、地方商店街は大型ショッピングモールの進出により苦境に立たされていました。福井では地元商店街を守るため、地域に密着した商業施設の運営が模索され、福井方式が誕生しました。核テナントだけでなく、地元商店で構成される組合が施設運営に主体的に関わる点が、この方式の大きな特徴です。これにより、地域のニーズを反映した店舗やイベントの企画が可能となり、地域全体の魅力向上に寄与しています。


地元の味、ソースカツ丼が復活

福井県のソウルフードといえば、なんといっても「ソースカツ丼」です。卵でとじるタイプのカツ丼が主流の他県とは異なり、福井ではソース味のカツ丼が愛されています。中でも地元で長年親しまれてきた人気店が後継者不足で閉店した際、再開を求める声が多数寄せられました。レシピを譲ってほしいという申し出も多くありましたが、どの提案にも店主は首を縦に振らず、その味は一度は幻となりました。

しかし、あるショッピングセンターの専務理事が諦めず日参し、熱心に頼み込んだことで、フードコートへの出店が実現しました。このニュースは地域に明るい話題を提供し、今でもその店舗は多くの人々で賑わっています。

ちなみに、筆者は卵でとじたカツ丼派ですが、休日には有名ソースカツ丼チェーンの本店に行列ができるほどの人気を目の当たりにすると、福井県民にとってのソウルフードの強さを実感します。


若者の居場所「コミかる」の挑戦

福井方式のショッピングセンターでは、買い物だけでなく地域全体の活性化を目指した取り組みも行っています。その一例が、若者の居場所づくりを目的とした「コミかる」という施設。ここではイベントや交流スペースを提供するなど、地元の若者たちが気軽に集える環境を整備しています。この取り組みは、来年にかけて、県下のショッピングセンターに広がりつつあります。


福井方式の未来と全国への波及

福井方式の成功は、地域商業の持続可能性を模索する全国の自治体にとっても貴重な参考例となっています。核テナントだけに頼らない独自の運営形態は、地域の魅力を再発見するきっかけとなり、さらに観光との連携を深めることで、地域商業の未来を切り拓く可能性を秘めています。


大店法はなぜ施行されたのか?その背景

大規模小売店舗法(大店法)は、1974年(昭和49年)に施行されました。その背景には、戦後の経済成長と消費者需要の変化により、小売業界が大きな変革を迎えたことがあります。


大店法施行の全国的背景

1. 高度経済成長と消費の変化

高度経済成長期には所得水準が上昇し、都市化が進む中で、多くの人が商品を安価に大量に購入できる大型店舗を求めるようになりました。これに応える形で、大型スーパーやデパートが全国で急速に増加し、小規模な地元商店や商店街は経営難に陥りました。

2. 地元商店の保護

大型店舗の進出により、地域の商店街が衰退し、地元の経済基盤が弱体化する懸念が広がりました。特に中小小売業者や地元の小規模商店が競争に勝てず、閉店が相次ぐ事態に陥ったのです。

3. 地域コミュニティの崩壊防止

商店街は単なる商業の場だけでなく、地域コミュニティの中心的な存在でした。そのため、大型店舗の進出による商店街の消失は、地域の人々が日常的に交流する場を失うことにつながり、地域社会の崩壊を引き起こしかねないとの懸念がありました。

4. 都市部と地方の格差是正

大型店舗の進出は都市部が中心でしたが、地方への進出が進むにつれ、地域ごとの経済格差を広げる要因になると考えられました。大店法は、これらの格差是正を意図する政策の一環でもありました。


大店法の目的

大店法は主に以下の目的を持って施行されました。

  1. 地域の商業環境を保護する
    大型店舗の新設や拡張を規制し、地元の中小小売業者が健全に営業できる環境を整える。
  2. 地域経済の安定化
    地元商店の存続を支えることで、地域経済を安定させる。
  3. 大型店舗と地元商店の共存を図る
    大型店舗の進出に際して、地域社会や商店街との調和を求め、急激な変化を抑制する。

大店法の限界とその後

1990年代に入ると、経済のグローバル化や規制緩和の波が押し寄せ、大店法の存在が見直されるようになりました。主な批判点は以下の通りです。

  • 消費者利益との矛盾
    安価で多様な商品を求める消費者のニーズに応えにくくなる点が問題視されました。
  • 地域経済への逆効果
    規制が強すぎることで、地方経済が逆に成長機会を失う懸念がありました。

その結果、2000年に大規模小売店舗立地法(大店立地法)が施行され、大店法は廃止されました。新法では地元商店保護の観点から、周辺環境(交通や騒音など)への影響を重視する形に移行しました。


福井方式と大店法の意義

福井方式は、大店法が目指した「地元商店の保護」の精神を引き継ぎつつ、新たな時代の要請に応える形で発展しました。地元商店と大型店の協力という独自の運営スタイルは、全国の地方都市が直面する課題に対する一つの解決策として注目されています。