トロイ遺跡を訪れたとき、私はその控えめな姿になんだかかえって親近感を覚えました。エフェソスのような壮大な遺構とは対照的に、実際には風化し、歴史の重みを静かに抱える遺跡が広がっていたのです。しかし、その姿には不思議な哀愁とロマンが漂っており、私はすぐに心を奪われました。

特に印象に残ったのは、トロイの地層が9つにカウントされているという事実です。トロイは、紀元前3000年から1200年にかけて幾度となく文明が栄え、そして滅びていきました。考古学的には「トロイVII」と呼ばれる層が、ホメロスの『イリアス』で語られるトロイ戦争の時代に相当するとされていますが、実際にその戦争がどのように行われたのかは、まだはっきりしていません。何層にも重なる遺跡を見つめていると、まるで「盛者必衰」の理をそのまま体現しているかのように思えました。かつて栄華を誇った都市が、今では静かにその残骸をさらしている姿には、深い哀愁が漂っています。

そして、トロイ遺跡の話に関連して、どうしても触れざるを得ないのが「トロイの木馬」です。このエピソードは、戦略的な勝利を象徴するものとして広く知られています。遺跡のそばに設置された巨大な木製の馬は、実は20世紀に観光用に再現されたものですが、現地を訪れるとやはり心が動かされます。ホメロスの描いた壮大な物語が現実と重なり、英雄たちの足音が聞こえてくるかのようです。

ところが、先日、そんなトロイの木馬が全く別の形で私の生活に登場しました。パソコンを使っていたとき、突然「トロイの木馬に感染しました!」という警告音が鳴り響き、PCがけたたましく騒ぎ出したのです!驚いて大慌てで対処しようとしましたが、よくよく調べてみると、これは実際のウイルス感染ではなく、詐欺的な警告メッセージだったことがわかりました。ウイルスに感染したかのように見せかけ、電話をかけさせたり怪しいサイトに誘導したりする典型的な手口だったのです。

この現代の「トロイの木馬」は、まさに策略を使った攻撃です。ホメロスの時代に木馬が使われたように、私も不意打ちを食らった気分になりました。そんな策略に「トロイの木馬」という名前が使われているのは、なんだか少し残念に感じます。古代の壮大な物語が、現代ではウイルスや詐欺の象徴として使われているなんて、あまりにも不名誉な気がします。

それでも、トロイ遺跡を訪れたときに感じたロマンや哀愁は、デジタルの木馬騒動では消せません。トロイは、単なる遺跡や神話の舞台ではなく、文明の栄枯盛衰を象徴する場所です。地層が9つも重なっているその光景は、歴史の長い流れをそのまま映し出しており、どんなに繁栄した文明もやがては消え去るという普遍的な真実を教えてくれます。

実は、私が住んでいる地域にも「一乗谷朝倉氏遺跡」という史跡があります。ここでも、一部の武家屋敷は復元されているものの、大半は遺構のままです。しかし、私はその復元された建物よりも、むしろ遺構の方により強く心を惹かれることが多いのです。土の中から顔を覗かせる遺跡は、古の時代の人々の営みを想像させてくれ、過去に思いを馳せる瞬間を与えてくれます。トロイ遺跡と同じように、一乗谷の控えめな遺構こそが、私にとっては往時のロマンを掻き立てる存在なのです。

また、私は旅に出ると、ささやかな思い出のために必ず一つ雑貨を買うことにしています。今回のトルコ9日間の旅も例外ではなく、さまざまなまよった結果、「トロイの木馬」の形をしたマグネットを連れて帰ることにしました。このマグネットは、私にとって今回の旅のシンボルになりました。これを見るたびに、トロイの遺跡やその不思議な場所に立ち、時の流れや過去の物語に思いを馳せた瞬間を、いつでも思い出すことができるでしょう。

エフェソスのように保存状態の良い遺跡ではないかもしれませんが、トロイにはその控えめな姿だからこそ感じられる深い魅力があります。人々の営みが刻まれたその土地には、時間を超えた哀愁と、時代を超えて私たちに語りかける物語が息づいています。そして、何よりもトロイという場所には、歴史とロマンが織り交ぜられた不思議な魅力があるのです。

現代の「トロイの木馬」には油断せず、パソコンのセキュリティ対策をしっかりしながらも、私はこれからもトロイ遺跡や一乗谷のロマンを心に抱いていたいと思います。古代から今に至るまで、トロイは私たちに想像力を掻き立てる場所であり続けるのです。

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