「糸」がつなぐもの──書と音と、心の旅

このあいだ、とあるイベントで書道パフォーマンスを鑑賞する機会を得ました。
大きな紙の前に立ち、音楽にあわせて筆を運ぶ書家さんの姿は、とても真摯でありひと筆ごとに、新たな余白が生まれ、空気が変わるのを感じました。

流れていたのは、中島みゆきさんの「糸」。書家と同じ市出身の音楽家らとのコラボレーションというなんとも贅沢なひと時でした。
あまりにも有名なこの曲。映画や式典などで何度も耳にしてきましたが、私にとっては、2005年に開催された「第20回国民文化祭・ふくい2005」のイメージソングとして使用されたことが思い出される特別な一曲です。
そのとき、何かドラマチックな出来事があったわけではないのに、今でもこの曲を聴くと胸がいっぱいになります。なぜなんでしょうね。不思議です・・・。

家に帰ってから、なんとなくその曲を動画サイトで検索してみました。すると、「糸」は本人のほか、たくさんのカバーバージョンが出ていることがわかりました。それらをランダムに聞いていると、気がつけば関連動画の沼に……。さらには合唱曲の「旅立ちの日に」や、卒業ソングの合唱、そしてその誕生秘話。どれもじんわりと心にしみるものでした。

最近は、地元の中学校が部員不足で合唱部が成り立たないという話を聞きました。ほんの数年前、地区の文化祭で素敵な歌声を披露してくれた生徒たちは巣立ってしまい、後を受け継ぐ人がいなくなってしまったようです。

その光景を思い出しながら、聞いたばかりのメロディーを口ずさみ、このように思いがけないシーンで触れる音楽や、動画の中の歌声、そして一つのパフォーマンスが、地域や教育、文化と自分をつなげてくれるのだ、と思い巡らせていました。

今回の書道パフォーマンスがとても心に残ったのには、もう一つ理由があります。
実はこの書家さんは、ふるさとで初めて個展を開いたとのことですが、その展示を、プロに頼らず私たちボランティアが彼の指示のもと作り上げていったのです。だからこそ、書の世界に懸ける情熱や、地元で表現することの重みを、より近くで感じていた気がします。

書家は、ただ文字を書くのではありません。もちろん、その力強い筆跡は心を打つものです。しかし、それにとどまらず、今回のように音と筆を使って、時間と空間そのものを変えてしまうような表現へと進化していました。
文字が“造形”になり、筆が“踊る”。それはもう、芸術の域です。

そんな姿を目の前で見ていたら、ふと自分のことも考えてしまいました。


年齢を重ねると、「もう新しいことへの挑戦はないかな・・・」とどこかで線を引いてしまいがちですが──
いやいや、まだできるかもしれない。
私にも、まだ何かにチャレンジできるかもしれない。

そんな風に、そっと背中を押されたような気がしました。

芸術にふれ、音楽にひたり、動画に没入する──
そんな一日も、たまには悪くないですよね。