新しいことを始めようと思うと、私はつい契約したくなります。
本を買う。講座に申し込む。新しい道具をそろえる。
すると、不思議な安心感が生まれます。
「よし、これで私は変われる」
「これで勉強を始める人になった」
そんな気持ちになるのです。
ところが、その先が続きません。
本棚には買っただけの本が並び、申し込んだ講座は途中で止まり、いつの間にか存在すら忘れている。
そんな経験は、一度や二度ではありません。
昔は、自分の意志が弱いのだと思っていました。三日坊主、継続が苦手、飽きっぽい。そうやって自分を責めていたのです。
でも最近、少し違うのではないかと思うようになりました。
私は勉強が嫌いなのではありません。新しいことへの興味は、むしろ強いほうです。
問題は、**「始める決意をした時点で、満足してしまう」**ことでした。
なぜ、私たちは学ぶ前に満足してしまうのか
本を買う。講座に申し込む。
それ自体は、悪いことではありません。学ぶための環境を整えることも必要です。
ただ、そこには落とし穴があります。
何かを始めようと決めたとき、私たちは未来の自分を想像します。
資格を取った自分。英語が話せる自分。新しい仕事に挑戦する自分。趣味を深めている自分。
その未来に、少し近づいたような気持ちになる。
実際には、まだ何も身についていないのに、です。
今振り返ると、私は本そのものが好きというより、未来の自分への期待を買うのが好きだったのかもしれません。
もちろん、すべての買い物が無駄というわけではありません。教材がなければ始められないこともあります。
ただし、準備したことと、学んだことは別です。
お金を払ったことと、自分の力になったことも別なのです。
この区別をしないままでは、自己投資がいつの間にか自己満足に変わってしまいます。
中高年の学びは、若い頃と同じではいられない
年齢を重ねると、学びの意味も少し変わってきます。
これからの働き方を考える。年金生活を見据えて家計を整える。新しい仕事に必要な知識を身につける。資格に挑戦する。旅行や趣味をもっと楽しむ。
学びたいことは、まだまだあります。
一方で、使える時間もお金も無限ではありません。
だからといって、年齢を理由に学びを諦める必要はないと思います。
むしろ大切なのは、限られた資源をどう使うかです。
例えば、資格を取りたいなら、テキストを何冊も買いそろえるより、まず問題を一問解いてみる。
英語を身につけたいなら、教材を探し続けるより、知っている単語が使われた短い英文を読んでみる。
家計を改善したいなら、便利な家計簿を探す前に、今月の支出を一つ確認してみる。
学ぶ目的によって方法は違いますが、共通することがあります。
それは、学びを始める前の行動より、学んだ後に何が変わったかを見ることです。
「勉強した」ではなく「何を回収したか」
最近、私は「少しでも回収する」という考え方が大切だと思うようになりました。
本を買ったなら、一ページ読む。
講座に申し込んだなら、動画を十分だけ見る。
教材を買ったなら、一問だけ解く。
ただし、ページをめくっただけで知識が身につくとは限りません。
だから、できればもう一歩だけ進めます。
読んだ内容を一つ説明できるか。問題の答えを自分で出せるか。昨日はわからなかったことが、今日は少しわかるか。
そんな小さな変化を確かめるのです。
私は以前、全部やらなければ意味がないと思っていました。
一度始めたなら、最後までやり切らなければならない。途中で止まったら失敗だ。
でも、その考え方では再開すること自体が重くなってしまいます。
今は、全部を回収できなくてもいいと思っています。
ただし、何にお金を使ったのか、何を得たかったのかは忘れないようにしたい。
自己投資をしたつもりなら、その投資から何を得られたかを、ときどき振り返る。
それも大切なことではないでしょうか。
継続のコツは、意志よりも仕組みにある
では、助走の長い人間はどうしたらいいのでしょう。
私なりに、いくつか考えてみました。
「勉強する」ではなく「教材に接触する」
一時間勉強しようと思うと重いものです。
でも、本を開く。問題を一問見る。動画を五分だけ再生する。
それなら、少しハードルが下がります。
もちろん、開くだけで終わる日があってもかまいません。
ただ、余裕がある日は、何か一つ理解したことを残しておく。
中断した自分を責めない
一週間空くこともあります。一か月空くこともあるでしょう。
以前の私は、その時点で諦めていました。
でも、続けるとは、毎日欠かさずやることだけではありません。
中断しても、また戻ってくること。
再開するときは、最初からやり直す必要もありません。
前回の続きから、一問だけ。一ページだけ。
それで十分です。
準備に期限を設ける
調べる。比較する。道具をそろえる。
準備が好きな人ほど、ここに時間を使いすぎることがあります。
教材選びに何日もかけるくらいなら、今ある教材で一度試してみる。
新しいものを買う前に、今持っているものを使ってみる。
もちろん、必要な準備は省けませんが、準備を終える条件を決めておくと、いつまでもスタートラインに立ち続けることを防げます。
「最後に触った日」を記録する
買った日や契約した日ではなく、最後に使った日を意識します。
例えば、教材の表紙に開始日を書き、最後に取り組んだ日も記録しておく。
再開したら、その日を更新する。
大げさな学習管理表は必要ありません。
自分が何を始め、どこで止まり、何を再開したのか。
それがわかるだけでも、次の行動を決めやすくなります。
小さな積み重ねは、どこへ向かうのか
大谷翔平選手のような一流選手を見ると、つい特別な才能や華やかな結果に目が向きます。
でも、結果だけを見ていると、その前にある地道な練習が見えなくなります。
これは、私たちの学びも同じかもしれません。
資格を取る。仕事の幅が広がる。新しい趣味ができる。
目に見える成果の前には、小さな行動があります。
ただし、積み重ねれば必ず思いどおりの成果が得られる、というほど単純でもありません。
努力の方向が間違っていることもあります。自分に合わない方法もあります。
だからこそ、時々立ち止まって、学んだことが目的に近づいているかを確認する。
続けることだけを目標にしない。
必要なら、やり方を変える。場合によっては、やめることも選択肢に入れる。
それも、限られた時間とお金を大切に使うための判断だと思います。
これからは、始めた数より回収したものを数えたい
私はこれからも、本を買うでしょう。
講座にも申し込むでしょう。
新しいことに興味を持つ性格も、きっと変わらないと思います。
でも、これからは少しだけ基準を変えたい。
何冊買ったか。何に申し込んだか。いくつのことを始めたか。
それよりも、何を理解したか。何ができるようになったか。自分の生活に何を生かせたか。
そちらを大切にしたいのです。
例えば今日、買ったままの本を一ページ読む。
止まっていた問題集を一問解く。
以前申し込んだ講座を、もう一度開いてみる。
そして、できたことを小さく記録する。
それだけでも、未来の自分への期待が、少しずつ今の自分の力に変わっていきます。
年齢を重ねると、これから何年あるだろうと考えることがあります。
だからこそ、何かを始めることだけで満足している時間は、少しもったいない。
大きな成果を急ぐ必要はありません。
ただ、せっかく始めたことを、始めただけで終わらせない。
未来の自分に期待するだけでなく、今日の自分に小さな成果を渡す。

コメント