成田悠輔氏が福井のONE PARK FESTIVALに出る。
それを知ったとき、私はまず、かなり素朴な疑問を持った。
なぜ?
音楽フェスですよ?
成田悠輔氏はミュージシャンではない。
歌うわけでもない。
DJをするわけでもない。
それなのに、福井の街中で開催される音楽フェスに登場するという。
これはちょっと面白い。
いや、正直に言えば、ちょっと意味がわからなかった。
だから質問を送ることにした。
質問募集を、偶然見つけた
実は、質問募集をしていることは、誰でも自然に知るような感じではなかった。
少なくとも私は、フェスの情報をたどって、たどって、たどっていくうちに見つけた。
情報を取りに行ったからわかった。
取りに行かなければ、たぶん知らなかった。
偶然見つけたときは、ちょっとラッキーだった。
「質問、送れるんだ」
これは送るしかない。
私は成田氏が嫌いなわけではない。
むしろ、嫌いなキャラクターではない。
ただ、せっかく質問できるなら、普通の質問はしたくなかった。
「福井に来てどうですか?」
みたいなことを聞いても仕方がない。
せっかくなので、少し鋭くいこうと思った。
結果、私は3つ質問を送った。
ギャラのこと。
メガネのこと。
そして、
もしトークが音楽より盛り上がってしまったら、どうするつもりなのか。
まあ、そんな質問である。
70通と聞いて、え?と思った
当日、私は会場に1時間前から陣取った。周りには団扇を持った、明らかに追っかけてきなひとまでいる。関東圏から来たという人もいた。
トークセッションがはじまり、フェスの主催者である社長とミュージシャン2人がまず登壇。
事前に寄せられた質問は70通ほどだったらしい。
そこで私は、え? 意外と少ない。と思った。3つ送っている。70通くらいなら、もしかしたら。
いや、1つくらいは。そんな期待が急に生まれてしまった。
だから、質問が紹介されるたびに、ちょっとドキドキした。
次かな。違った。じゃあ次かな。これも違った。
……あれ?
そのうち、「あ、これは私の質問ではないな」
という現実が、少しずつはっきりしてくる。
結局、私の質問は一つも読まれなかった。
ちょっとだけ、がっかりした。
でも、それはそれとして、私は途中から別のことを考え始めていた。
どんな質問が選ばれているんだろう?
選ばれた質問を聞いているうちに、少し主催者の意図が見えてきた
結構、正統派の質問が多かった。
22歳くらいの大学生からの、
「夢を追うべきか、お金を取るべきか」
という質問。
教職を目指している学生からの、
「教師にしかできないことは何か」
という質問。
そして、地方の将来をどう考えるのか、というかなり本格的な質問。
最初は、
「私の質問、もっと面白かったと思うんだけどなあ」
と、もちろん思った。
思ったけれど、聞いているうちに、なるほどと思った。
これは、成田悠輔氏に質問して、成田氏が一人で面白い答えをするための時間ではなかったのだ。
ミュージシャンたちとのトークショーだった。
ここが大事だった。
成田悠輔氏を、一人勝ちさせない
ステージには成田氏のほかに、ONE PARK FESTIVALを立ち上げた社長でもあるミュージシャン、昔からの友人であるトランペッター、そしてラッパーの3人がいた。
話の口火を切るのも、基本的にはミュージシャン側。
成田氏が何かを言う。
すると、
「いや、でも……」
と誰かが食いつく。
成田氏がまた何かを投下する。
また誰かが食いつく。
その繰り返しだった。
私は途中から、
これ、成田悠輔氏を一人勝ちさせないためのトークショーなんじゃないか
と思った。
もし、
「日本経済の未来をどう思いますか?」
みたいな質問ばかりだったら、たぶん成田氏が答えて終わる。
でも、
「夢とお金、どちらを取るべきですか?」
なら、ミュージシャンにも答えられる。
「教師にしかできないことは?」
なら、全員が自分の経験から話せる。
選ばれた質問は、成田氏を困らせるためというより、
4人の価値観をぶつけるための質問
だったように思えた。
そして、その方が圧倒的に面白かった。
「夢か、お金か」に、ミュージシャンが意外な答えをした
冒頭で紹介された質問。22歳くらいの大学生。
将来について考えている。
夢を追うべきか。
それともお金を取るべきか。
こういう質問を音楽フェスでミュージシャンに聞いたら、どんな答えが返ってくると思うだろう。
私は勝手に、
「夢を追え」
と言うのではないかと思っていた。
ところが違った。
最初に答えたラッパーは、
「お金。次に夢」
という趣旨のことを言った。
社長もそれに同調した。
これは意外だった。
夢を追ってきた人たちである。
音楽で生きてきた人たちである。
だからこそ、22歳の学生に対して、安易に「夢を追え」と言わなかったのかもしれない。
むしろ、自分たちがそういう人生を生きてきたからこそ、
夢だけではない
ということを、誠意を持って伝えたのではないか。
そんなふうに私は感じた。
もちろん、彼らが「夢派ではない」という意味ではない。
ただ、ミュージシャンというと、勝手に「夢を追う人たち」というイメージを持っていた私には、意外に堅実な思考が見えた瞬間だった。
成田氏も、そのあたりを少し面白がっていたように見えた。
成田氏自身は、以前から「お金がなくなればいい」といった趣旨の発言をする人として知られている。
だから、ここで壮大なお金のイデオロギー論争になるのかと思った。
でも、ならなかった。
そこも意外だった。
そして私は思った。
ああ、これは成田悠輔氏の講演ではないんだ。
「教師にしかできないことは?」という、かなり難しい質問
教職を目指している学生から、
「教師にしかできないことは何ですか」という質問があった。
これも、今の時代ならかなり切実な質問だと思う。
AIが進化している。知識を教えるだけなら、AIの方が優秀になるかもしれない。
では、教師という仕事にしかできないことは何なのか。
成田氏は、確か最初からかなり身も蓋もない方向へ行った。
「ないんじゃないか」
という趣旨だったと思う。
そこからAIの話になった。
「学び」ということだけなら、AIが一番優秀になるかもしれない。音楽もAIで作れる。社長は実際自分も使っている、今まですごく日数のかかっていた作業が30分くらいでできる、とのこと。トランぺッターは否定派だった。
成田氏も「昨今ではわからないことがあったら、AIの方が教師や親より正しい答えをだしてくれる」と。確かにそうかもしれない。
でも、そこでミュージシャンがくいさがる。
学校という「箱」は必要なのではないか。
人が集団の中で関わることには意味があるのではないか。
成田氏が何か言う。
またミュージシャンが食い下がる。
途中、なぜか学校での体罰や暴力の話にまで広がった。
そして成田氏が、
「ミュージシャンの皆さんは暴力容認派ということで」
というようなことを言う。
会場には効果音を入れるキーボードが控えていて、
ブー。
会場が笑う。
いや、これは完全にエンターテインメントだった。
でも、この質問で私が一番印象に残ったのは、最後だった。
トランペッターが、質問者に向かって言った。
「〇〇君(質問者のペンネーム)にしかできないことをやったらいいんじゃない」
教師にしかできないこと。
AIにできないこと。
そんな大きな話を散々したあとで、答えは一人の人間に戻ってきた。
教師にしかできないことを探す前に、〇〇君にしかできないことをやればいい。
私は、この落とし方がすごくよかったと思った。
そして、昨日感じた、
「ミュージシャンたち、やさしいな」
という感覚は、たぶんこういうところから来ている。
成田氏に勝とうとしたわけではない。
AI論争で論破したわけでもない。
ただ、質問した一人の若者を置き去りにしなかった。
それが妙によかった。
「前科者フェス」をやるらしい
「自分がフェスを主催するとしたら、どんなフェスをやりますか」
という質問もあった。
成田氏の答えは、
「前科者フェス」
だった。結構即答だった。
もう、この時点で何を言っているのかよくわからない。
成田氏は、音楽は不要不急の最たるものだ、というようなことも言っていたと思う。
そして、何か悪いことをすると、すぐに社会から排除される。
バツ印がつく。
だったら、そういう人たちを集めてフェスをやればいい。
そんな話だった。
するとラッパーが乗っかる。
捕まって実刑になった人。
捕まったけれど、そこまではいかなかった人。
捕まっていない人。
……。
ブー。
会場がまた笑う。
成田氏は、
「同じフェスの中で、あちこちに分けてやればいい」
というような身振りをする。
するとトランペッターが、
「誰も出ないんじゃないの?」
みたいなことを言う。
もう完全に、話がどこへ行くかわからない。
でも面白い。
永平寺町への質問だけは、突然「有料級のコンサル」になった
一方で、かなり真面目な質問もあった。
匿名希望。
でも、聞けばすぐに、
「あ、永平寺町の町長さんだな」
とわかるような質問だった。
少子高齢化が進む町の将来を、どう考えればいいのか。
これはもう、フェスの質問というより、かなり本格的な地域政策の相談である。
下手をすると、本当にコンサル料金が発生しそうな質問だった。
そこで成田氏が出したのは、
富裕層が人生の最後を過ごす場所
という方向性だった。
都会の真ん中には超高級な高齢者施設がある。
でも、
自然があり、食があり、環境があり、人生の最後を豊かに過ごせる場所。
そういうものをトータルで提供する場所は、日本にはあまりない。
アメリカには、フロリダやアリゾナなどにそういう場所がある。
そんな趣旨の話だったと思う。
社長が、
「終の棲家、という感じですかね」
と言葉にしていく。
これは、私はかなり目からウロコだった。
もちろん、すぐに実現できる話ではない。
でも、確かに永平寺には強いコンテンツがある。
自然もある。食もある。環境もある。
そして何より、「永平寺」という名前そのものが強い。
社長も、
「有料級のコンサルをいただきましたので、ぜひご検討を」
というようなことを言っていた。
さっきまで前科者フェスの話をしていた人が、突然、地方創生コンサルタントになる。
この振れ幅である。
成田悠輔氏は、お香の話をしていた
個人的に、意外だったのはここかもしれない。
暇なときに何をしているのか。
そんな個人的な質問だった。
成田氏は、
お香。
そして、風で動くような古いプラモデルの話などをしていた。
京都の何か有名なお寺のお香、という話もあったと思う。
このあたりは、正確な名称を覚えていないので、もし記事にするなら後で確認が必要だ。
ただ、私が面白いと思ったのは、
匂いの話だった。匂いは形がない。言葉にするのも難しい。
食レポは上手にできている人がいるけれどにおいは言語化しづらい、レポートをしているところがあまりなくて未開拓分野。何かを見て説明するのとは違う。
その「言語化しにくいもの」に惹かれているように見えた。
成田悠輔氏というと、
AI。経済。教育。社会。合理性。
そんなイメージを勝手に持っていた。
でも、お香の話をする。匂いのような、形のないものに興味を持つ。
それは、ちょっと意外だった。
なぜヒゲを生やしているのか
有名人からの質問だったと思う。
なぜヒゲを生やしているのか。
成田氏自身も40歳になり、最近ヒゲを生やし始めたことをいじられていた。
人生が長くなった。
40歳でも、まだ人生の折り返し地点ではないかもしれない。
そのくらいの年齢になると、少し余裕が出てきて、
走り始める人。
山に登り始める人。
そして、ヒゲを生やし始める人がいる。
そんな趣旨の話だったと思う。
このあたりは、私の記憶がかなりあいまいだ。
でも、昨日のステージでは、こんなふうに、
社会の話と、どうでもいいヒゲの話が同じ温度で並んでいた。
それが妙に面白かった。
岡倉天心みたいな格好をした人が、音楽フェスにいた
そして、成田悠輔氏本人。
和装で登場した。
私は、なんとなく岡倉天心を思い出した。岡倉天心といえば福井ゆかりの芸術家。銅像もフェス会場のどこかにある。
そして最前列を見ると、
ガチの追っかけがいた。
うちわを持っている。
成田悠輔氏の追っかけである。
社長も、
「え? こんな感じなの?」
というような驚きを見せていた。
たぶん、
「成田悠輔って、こんなにファンがいるの?」
という意味だったのだと思う。
論客。
経済学者。
大学教授。
YouTubeで話す人。
それなのに、音楽フェスの最前列には追っかけがいる。
しかも、うちわまである。
もう、どんなカテゴリーの人なのか、よくわからない。
でも、たぶん本人も、そのよくわからなさを面白がっているのではないか。
なぜ成田悠輔氏は、音楽フェスに来たのか
結局、最初の疑問に戻る。
なぜ、成田悠輔氏は音楽フェスに来たのか。
事前には、よくわからなかった。
だから質問も送った。
私の質問は読まれなかった。
ちょっと残念だった。
でも、昨日のステージを見て、少しだけわかった気がする。
成田悠輔氏の講演ではない。
インタビューでもない。
誰かが成田悠輔氏から「正解」を聞き出す場でもない。
成田氏が何か言う。
ミュージシャンが食いつく。
また誰かが違うことを言う。
ブーが鳴る。
会場が笑う。
真面目な地方政策の話になる。
次の瞬間には前科者フェスになる。
そして最後には、
「丸〇君にしかできないことをやったらいい」
という言葉に戻ってくる。
トークショーって、こういうことなのかもしれない。
誰か一人が正解を話すのではない。
その場にいる人たちが、予定通りにいかない。
話が横道にそれる。
誰かが食い下がる。
誰かが困る。
そして、客席も一緒に、
「次、何が起きるんだろう」
と見ている。
AIに、このライブ感は、まだ難しい。
少なくとも昨日の私は、
楽しみすぎてメモを取っていなかった。
だから今、細かい発言はかなり忘れている。
正確な逐語録にはならない。
でも、あの場にいた空気は覚えている。
質問を3つ送った。
読まれるかもしれないと思って、ちょっとドキドキした。
結局、読まれなかった。
でも、読まれなかったからこそ、客席から、
この人たちは何をやろうとしているんだろう
と見ることができた。
ONE PARK FESTIVALを立ち上げた社長は、以前から何らかの形でトークセッションをやりたかったらしい。
今回、それが実現した。
きっと嬉しかったと思う。
でも、相当ハラハラしたのではないだろうか。
だって、成田悠輔氏をステージに呼んでいるのだから。
しかも、一人勝ちさせない。
ミュージシャンたちが食いつく。
反論する。
話を別の方向へ持っていく。
そのハラハラがあったからこそ、昨日のトークは面白かった。
そして、もしかしたら成田悠輔氏が黒猫堂という音楽・カルチャーの世界に入ってやりたいことの一つも、こういうことなのかもしれない。
テレビでもない。
大学でもない。
講演会でもない。
音楽フェスのステージで、ミュージシャンたちと話す。
何が起きるかわからない。
でも、何かが起きる。
そういう場所。
少なくとも私は、最初に思っていた、
「成田悠輔、音楽フェスに来て何するの?」
という疑問に対して、
昨日は少し違う答えを持って帰ってきた。
ああ、こういうことをするために来たのか。
……たぶん。
おわりに
トークセッションは面白かった。演者?たちと何の仕切りもなしに至近距離で体感できたことも大きい。
そして、何より、こうして時間を巻き戻しても
「質問をあれこれ考えている時間が楽しかったな」
と思えていることが本当に幸せ。参加している感じも味わえた。
きっと、うちわを持ってきた人も、当日はもちろんだが団扇を作っている時間がしあわせだったんじゃないかな。

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